第7回 企画CAEの概要と課題 | DX時代の製品開発プロセスとCAEの重要性

前回(第6回)は、評価CAEの課題解決手法について以下のように紹介しました。

デジタルエンジニアリングの一環として、実機評価依存からの脱却を目指してCAE評価手法を確立することが重要です。そのためには主要部門(設計、解析、実験)の協業が不可欠であり、基本的な解決手順を参考にしつつスピーディに実用解を得ることが肝要です。

今回(第7回)は、企画を支援する企画CAEの概要と課題について、自動車用エンジン開発(ハードウェア主体)を例に企画プロセスと併せて解説します。

一般的に、企画は製品企画と技術企画の2つの段階があり、製品企画完了後に技術企画に移行します。製品企画とは、顧客ニーズや他社製品進化を予測しながら、製品全体のコンセプト、スタイリング、性能、売価・コスト等の基本的な目標を定めるプロセスです。技術企画とは、目標性能やコスト等を達成する仕様や諸元を技術的に定めるプロセスです。本コラムでは技術企画プロセスを対象とします。

企画プロセスは開発プロセスの最上流に位置し、対他競争力がある製品を企画して下流の設計プロセスにつなげることが主目的です。製品の性能ポテンシャルを最大限に引き出すと共に、性能目標未達成等の手戻りを未然防止することが求められます。そのためには、根本的な解決策としてMBDのVプロセスと呼ばれる枠組みを導入し、企画プロセスを再構築する必要があります。企画プロセスは製品企画や上位階層からの目標と要求を受けて、概ね以下のような流れになります。

システムモデル構築→ 実機合わせ込みと精度検証→ システム性能設計(最適化含む)→ システム信頼性設計(必要時)→ 設計プロセス連結(必要時)→ 仕様書作成→ 階層間の共有と連携

一般的に、自動車のパワートレイン領域におけるVプロセスの階層はL0:車両、L1:パワーユニット(エンジンとトランスミッション等)、L2:エンジン、L3:システム(エンジンを構成するシステム)、L4:サブシステム(システムを構成するコンポーネント)、L5:材料(材料機能)となります。

上位階層の車両性能(動力性能や燃費性能)を企画検討するためには、下位階層のエンジンモデル(出力特性や燃費特性)やトランスミッションモデル(変速レシオや伝達効率)等を、粒度(モデル詳細度)を揃えて作成し、これらを連結して車両モデルを構築します。予測精度向上のためにはモデル精度を高める必要があり、実機システムのふるまい(挙動)と十分な合わせ込みを実施します。必要に応じてモデルを3DCAEで補完したり、市場走行データ(走行条件、外気温度等)をモデルに組込んだりすることがあります。

車両性能設計では、製品企画で定めた動力性能や燃費性能等の目標について、この車両モデルを用いて性能最適化、目標達成予測、目標間のトレードオフ検証等を行います。下位階層では上位階層の要求に対応して、同様の手法でシステム設計を実施します。なお、下位階層モデルは設計プロセスにつなげるためにも細粒度で作成します。詳細については、後述の設計プロセスで解説します。

性能設計の次に、対象システムにより必要に応じてシステム信頼性設計を実施します。現在は解析内容により専用の書式を使用してFMEA(Failure Mode and Effect Analysis)等のシステム信頼性解析を実施していますが、1DCAEの機能進化で信頼性解析も可能になってきました。ちなみに、FMEAとは、システムを構成する要素(コンポーネントや部品)が故障した際に、システムの機能や性能への影響度を解析するボトムアップ手法です。重大な機能喪失等が予想されるのであれば、設計プロセス前の企画段階で対策を実施しておくことが重要です。

企画プロセス、および企画CAEには以下のような課題があり、開発現場では解決に向けて着実に検討が進められています。なお、自動車のボディや内装等は意匠も重要であり形状要素も強く、機能をベースとするMBDでは直接扱いにくい領域ですが、様々な工夫や試行が行われています。

(1)企画プロセスの構築
   ・階層間の連携、設計プロセスとの連結(必要時)、仕様書の整備等
(2)運用の仕組み作り
   ・プロセス標準化、企画情報管理、情報基盤(PLM)構築とプロセス実装等
     *PLM:Product Lifecycle Management
(3)プロセス連携
   ・サプライアとの連携(モデル流通の仕組みを含む)、製造部門との連携等

企画プロセスでは製品の性能ポテンシャルを最大限に引き出すと共に、性能目標未達成等の手戻りを未然防止するため、MBDを導入して企画プロセスを再構築し、企画CAEを体系的に組込みます。システム性能設計では、モデルを用いて性能最適化、目標達成予測、目標間のトレードオフ検証等を行います。必要に応じてシステム信頼性設計も実施し、重大な機能喪失等が予想されるのであれば、企画段階で対策を実施します。次回(第8回)は、企画CAEの開発現場における運用と応用について解説します。

著者ご紹介

品川エンジニアリング株式会社
(技術コンサルティング)
プロメテック・ソフトウェア株式会社顧問
品川 博 様

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1979年

㈱本田技術研究所 入社(四輪R&Dセンター)

  • エンジン設計(基幹部品)
  • エンジン設計部門長
  • パワートレイン開発部門長(米国研究所)
  • 開発プロセス改革(MBD/MBSE、設計基準構築等)

2016年
品川エンジニアリング㈱ 設立(技術コンサルティング)

  • MBD/MBSE、開発プロセス改革等
  • プロメテック・ソフトウェア顧問