第4回 DX時代のCAE
前回(第3回)は、製品開発プロセスの目指す姿について以下のように紹介しました。
開発プロセス改革の主目的は、製品の競争力強化(性能向上、軽量化、コストダウン等)に寄与し、開発を高効率化、高速化することです。改革を実現するためには、デジタル技術を基盤として企画、設計、検証の各プロセスを再構築した上で連結し、プロセスとして完成させる必要があります。
開発高効率化や高速化については個別の施策では限界があり、大きな効果を期待するためには製品の試作回数を減らすことが重要です。大変困難な課題ですが、手戻りを削減して複数回の試作を1回に減らすことが理想です。一方で、現時点では完全なバーチャル開発、すなわち試作レス開発は現実的ではありません。CAEでは解析や評価が難しい官能評価等が残されており、試作品による仕様熟成や最終確認が必須です。
CAEの導入経緯や動向について、自動車用エンジン開発を例として概説します。
①評価CAE:
1990年代頃からエンジンが高出力化し、実機耐久テストで主要部品の強度問題が多発したことから、耐久信頼性評価を主目的として評価CAEの導入が本格的に始まりました。CAEは実機テスト前のバーチャルテストの位置付けであり、CAEの解析精度(実機との相関係数)が重要です。当時はCAEの精度が十分ではなく、応力や温度を実機計測して補っていました。必要に応じて、自前でCAEを開発して活用していたこともありました。現場では実機とのコリレーションによる精度向上に取組み続け、CAEの進化も併せて実機テスト前に強度問題を未然防止できるようになりました。一方で、摩耗に代表される劣化問題の一部はCAE評価手法が未確立であり、実機検証に依存せざるを得ないことが課題です。
評価CAEは構造解析(強度解析)から機構解析(挙動解析)へ、さらに流体解析へと領域を拡大してきました。特に流体解析においては、粒子法CAEの登場により、従来では解析が難しかった現象も評価できるようになりました。現在では、複雑な現象をより精確に模擬するために、それらの連成解析も多用されています。
②企画CAE:
2000年代以降は、グローバル競争の激化や環境規制の強化を背景としてエンジンの性能目標が引き上げられ、さらに、出力、燃費、排気ガス、音振動等を総合した多目的目標群に変わってきました。そのため、企画段階で目標間のトレードオフも含めて性能予測が一層難しくなり、エンジン試作後に企画目標の未達成が発生し開発手戻りが散発しました。2010年代に入り、1DCAEの進化やMBDの普及を背景に、目標達成予測精度の向上やシステム性能の最適化を主目的とした企画CAEの試行が始まり、現在では実用の段階に入りつつあります。今後の課題としては対象システムの拡大、企画プロセスから設計プロセスへの連結、自動車会社と部品サプライアとのプロセス連携等があり、開発現場ではそれらの検討が着実に進められています。
③設計CAE:
2010年代半ば以降は、構造(形状)最適化による軽量化やコストダウン等を目的の一つとした設計CAEの検討が始まりました。主な軽量化手法には、材料技術や製造プロセスによる軽量化と構造最適化手法による軽量化の2種類があります。構造最適化とは、強度安全率を確保した上で余裕分を排除して軽量化する手法です。設計者が気付きにくい、従来に無い構造を提案することもCAEに期待されています。軽量化はコストダウンにも直結しますので設計CAEの普及が望まれていますが、その前に以下のような課題を解決しておく必要があります。
(1)設計者と解析者の相互理解と協業 ・設計パラメータや制約条件等を整理し、目的関数や最適化手法等を整合すること (2)CAE構造解析のさらなる評価精度向上 ・実機との相関係数をさらに高め、強度余裕分を正確に把握すること (3)3次元パラスタによる最適化の時間短縮 ・余裕の無い開発日程に組込むために、自動化を含めた短縮化を工夫すること (4)構造系以外の機構系や流体系への適用拡大 ・特に流体系は時間がかかるため、メッシュフリーソフト活用等で高速化すること |
デジタルエンジニアリングにおける開発プロセス改革の実現には、設計、解析、実験等の各部門の協業が不可欠です。改革を実現する鍵はCAEであり、従来以上に重要な位置付けになりますので、解析者には改革のリーダーシップを期待しています。
次回(第5回)は、評価CAEの概要と課題について解説します。