第9回 設計CAEの概要と課題 | DX時代の製品開発プロセスとCAEの重要性

前回(第8回)は、企画CAEの運用と応用について以下のように紹介しました。

MBDに基づく企画プロセスは汎用性が高く、改良開発や一括企画等への様々な応用が可能です。開発現場での安定的な運用のためにはプロセス構築だけでなく仕組み作りが重要であり、要点はプロセスの標準化および情報基盤の構築と実装です。情報基盤には企画情報(仕様書等)や企画CAE情報等を格納し、手戻りのないよう確実に開発関係者間で共有します。

今回(第9回)は、今後の普及拡大が期待される設計CAEの概要と課題について、前回同様に自動車用エンジン開発(ハードウェア主体)を例に、設計プロセスと併せて解説します。

既に紹介しましたように、設計プロセスでは主にシステム構成部品の構造設計(形状設計)を実施します。手順としては、前半の諸元設計段階でシステム要求や設計要件書等に基づき設計諸元(設計パラメータ)を決定し、後半の構造設計段階で基本設計(レイアウト:関連部品の配置)から詳細設計へと進みます。設計プロセスを支援するのが設計CAEであり、今後は製品設計において企画プロセスとの連結や設計の最適化プロセスの組込み等が不可欠になってきます。

一般的に、MBDのVプロセスの下位階層においては、システム要求を満たす設計を実現するために企画プロセスと設計プロセスの連結が必要になります。現時点ではMBDを導入した企画プロセスは構築途上であり、企画と設計のプロセス連結の実用化はこれからです。なお、対象システムの主な属性(機構系、構造系、流体系等)により、連結の必要性や手法は様々です。

NV(音振動)のような機構系システムでは、システム性能(1D系)と部品構造(3D系)の連結が必要です。3Dから1Dへは縮退という手法がありますが、1Dから3Dへ戻す手法は完全には確立されておらず、直接の連結はできていません。NV性能の最適化と連結手法について試行例が報告されており、少し複雑になりますが流れを以下に解説します。1Dの性能パラメータと設計諸元を連結できれば、後は諸元に基づき従来手法で構造設計が可能です。ちなみに、本例では性能パラメータは構成部品の質量や剛性等です。

(1)NVモデル作成:
 ・最適化のベースとなる3Dモデルを縮退して、1DのシステムNVモデルを作成する
(2)モデルによる最適化:
 ・先行パラスタにより各パラメータのNV性能感度を求め、感度の高いパラメータを抽出する
 ・高感度パラメータ群でパラスタを行い、目標性能を満たし最軽量となるパラメータを決定する
(3)設計パラメータ選定:
 ・設計パラメータを振って性能パラメータを計算し、関係性を示すグラフを作成する
 ・最適化された性能パラメータを満たす設計パラメータを上記グラフから選定する
(4)構造設計(形状設計):
 ・選定した設計パラメータを基に、各種制約条件内で構造設計を行う(従来手法)

製造業では競合他社が存在し、常に製品競争力向上を念頭に置いて開発が進められるのが通常であり、設計者には要求される性能や信頼性を有する製品を、より軽く安く具現化することが求められています。設計現場では経験や実験データ等に基づき構造設計を行うことも多く、汎用的な設計最適化手法は完全には確立されておらず、軽量効果等にも限界がありました。

一方、近年ではMBDやCAEの進化等を背景に最適化や高速化の手法が進歩し、設計CAEの枠組みの中に、軽量化やコストダウンだけでなく性能向上も含めて、技術ポテンシャルを最大限引き出せる設計最適化プロセスを構築することが可能になってきました。開発現場では設計者と解析者の協業により、設計最適化手法の確立に向けた検討が始まっています。

既に軽量化を例に課題を含めて解説済みですが、設計者には設計CAEの価値と課題を十分に理解し、企画部門や解析者と密に連携して課題解決に取組み、製品設計に積極的に設計CAEを活用していくことを期待したいと思います。
次回(第10回)は、設計CAEの普及拡大に向けて、課題解決の進め方について解説します。

著者ご紹介

品川エンジニアリング株式会社
(技術コンサルティング)
プロメテック・ソフトウェア株式会社顧問
品川 博 様

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1979年

㈱本田技術研究所 入社(四輪R&Dセンター)

  • エンジン設計(基幹部品)
  • エンジン設計部門長
  • パワートレイン開発部門長(米国研究所)
  • 開発プロセス改革(MBD/MBSE、設計基準構築等)

2016年
品川エンジニアリング㈱ 設立(技術コンサルティング)

  • MBD/MBSE、開発プロセス改革等
  • プロメテック・ソフトウェア顧問