第2回 DXとデジタルエンジニアリング | DX時代の製品開発プロセスとCAEの重要性

前回(第1回)は、本コラムの全体像を以下のようにご紹介しました。
現代は100年に一度の変革期とも言われ、時代や社会の変化に対する適応力が問われています。変革の鍵はDX(デジタルトランスフォーメーション)で、デジタル技術による事業革新を原動力として企業競争力を高めることです。日本でも国家レベルでDXを強力に推進しており、産業界でも業種を問わず導入が始まっています。製造業ものづくりにおいてはデジタルエンジニアリングの必要性が認識され始め、開発部門ではCAEを中核としてプロセス改革が加速しています。

今回(第2回)は、DXおよび製造業におけるデジタルエンジニアリングについて概説します。
日本では主に経済産業省がDXの普及拡大を後押ししており、本コラムでは経済産業省が公開している情報や資料等を参考にDXについて解説します。

経済産業省では「DX推進ガイドライン」においてDXを以下のように定義しています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」 
目的は事業改革により競争力を高めて顧客に選ばれることであり、DXは主要な手段です。言うまでもなく、顧客価値発で自社の戦略や強みに基づき、目指す事業改革やビジネスモデルの姿を描くことが先決です。

実行のためには経営者自らがDXの必要性を認識して経営課題の一つと捉え、推進体制を構築して全社横断で取組み、事業改革にまでつなげることが重要です。改革が実現するまでには時間もかかり、デジタル投資も必要です。経営判断の基となる費用対効果は重要ですが、もはや取組まないという選択肢は無いでしょう。

DXの基盤となるITシステムには課題もあることが報告されています。かつて部門毎に個別最適で導入され、カスタマイズや改修の繰返しによりシステムが複雑化しており、部門横断的な情報の一元管理や再利用が難しいことが多いようです。DXの本格展開に向けて、システムを再構築すべき時期に来たのかもしれません。その際はIT部門に任せきりにせず、関連部門も参加して以下のような要件を織り込む必要があります。

・情報を一元管理し、リアルタイムに共有できること
・必要な時に必要な形で利用できること
・今後の変化に迅速に対応できること

製造業においては製品開発、調達、生産技術、製造、品質、販売等の各部門が連携し合い、エンジニアリングチェーンとしてつながることで、顧客に求められる製品を製造し供給できます。この連鎖を結合するのがデジタル情報で、デジタルエンジニアリングチェーンに進化させる原動力となります。
デジタル情報管理の重点はPDMやPLMです。

これらの情報を各部門が最大限に活用し、部門のデータも加えて効率向上、品質向上、コスト低減、製造リードタイム短縮等を実現していきます。

PDM(Product Data Management):
製品設計情報(製品図面、構成部品表、技術文書等)はPDMというシステムで一元管理されます。
PLM(Product Lifecycle Management):
必要な情報はPLMというプラットフォーム(情報基盤)に体系的に集約管理され共有されます。

製品開発部門では、グローバル競争の激化等を背景に開発資源を製品開発から先行開発等に移行していくことが求められ、製品開発の高効率化が不可避になってきました。また、開発期間をさらに短縮して新製品を迅速に市場投入することも求められています。開発の高効率化や高速化の実現には、手戻りを未然防止して試作回数を減らすことが重点課題の一つであり、加えてプロセスの標準化や自動化も必要です。

そのためにはデジタル技術によるプロセス全体の再構築、すなわち開発プロセス改革が必須であり、部分的な施策では大きな効果は得られません。企画プロセスではMBD(Model Based Development/モデルベース開発)やMBSE(Model Based Systems Engineering/モデルベースシステムズエンジニアリング)の導入が始まっていますが、設計や検証とも連結して開発プロセスとして完成させる必要があります。

開発プロセス改革の主な手段はCAD、CAE、PDMです。その中でも核心はCAEであり、開発プロセスの各段階に体系的にCAEを組込むことが肝要です。一方、現場ではCAEで解析および評価できない技術課題も残されており、デジタル化の障害になりますので実験部門とも連携して解決しておくべきです。

海外の製造業の中には、既にデジタルエンジニアリングを実現している企業があります。狙い通り対他競争力が強化され、社内の体質改革も進み変化にも強い企業に生まれ変わっています。しかし、着手から実用化まで長期間かかっており、一朝一夕で改革を完成させることはできませんので、早く着手することが鍵です。

次回(第3回)は、製品開発プロセスの目指す姿について、MBD/MBSE手法も含めて解説します。

著者ご紹介

品川エンジニアリング株式会社
(技術コンサルティング)
プロメテック・ソフトウェア株式会社顧問
品川 博 様

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1979年

㈱本田技術研究所 入社(四輪R&Dセンター)

  • エンジン設計(基幹部品)
  • エンジン設計部門長
  • パワートレイン開発部門長(米国研究所)
  • 開発プロセス改革(MBD/MBSE、設計基準構築等)

2016年
品川エンジニアリング㈱ 設立(技術コンサルティング)

  • MBD/MBSE、開発プロセス改革等
  • プロメテック・ソフトウェア顧問