第1回 序 略歴とコラム紹介 | DX時代の製品開発プロセスとCAEの重要性

本コラムを担当させていただきますプロメテック・ソフトウェア㈱ 顧問の品川です。初めに略歴をご紹介します。大学卒業後本田技術研究所(四輪)に入社し、エンジン設計者を出発点にエンジン開発責任者や設計部門長を務め、現場での経験や学びの集大成として開発効率向上を目指した開発プロセス改革に取組みました。退社後は起業し、経験を生かして開発プロセス改革等のコンサルティングの仕事をしています。

2021年は、未だ世界中が手探りで光を見出そうともがいている幕開けとなりましたが、この困難の一年を振り返ると、ほんの数年まであまり使われていなかったDX(デジタルトランスフォメーション)という言葉が急速に社会に浸透し、企業にとってもデジタル化を主眼とした変革はもはや避けては通れない動きになっていることがわかります。

本コラムでは、時代の鍵となるこのDXに焦点をあて、ものづくりの開発現場が今後どう変わっていくべきかを連載コラムで語っていこうと思います。現場で長年製品開発に携わった設計経験者の視点で、製造業における製品開発プロセスの将来像とCAE(シミュレーション)の重要性について12回のシリーズでご紹介します。DXの時代にデジタル技術により開発プロセスは大きく変貌し、中核となるCAEの体系的な活用が決め手となります。第1回では本コラムの全体像をご紹介し、詳細については各回でご説明します。

現代は100年に一度の変革期とも言われ、5G、AI、DX、自動運転というようなキーワードが溢れ、社会や技術、モノやサービス等、多岐に渡り変革が始まっています。従来の技術や手法が通用しない時代になりつつあり、私は「強い者ではなく変わる者が生き残る時代」だと考えています。

製造業のものづくりにも変革が求められています。グローバルの競争激化や規制強化を背景に、自動運転や電動車等の次世代技術の開発強化が急務であり、製品開発を高効率化することで限られた開発資源を製品開発から次世代技術開発に移行していくことが求められています。開発期間をさらに短縮して新製品を迅速に市場投入することも重要であり、開発の高効率化や高速化は企業競争力に直結する時代です。

変革の鍵はDXで、デジタル技術による事業革新を原動力に企業競争力を高めることです。国家レベルでもデジタル化を強力に推進しており、業種を問わず不可欠であり時代の要請でもあります。製造業ではデジタルエンジニアリングとして広く認知され始め、開発部門ではデジタル化による開発プロセス改革が加速しています。改革には時間がかかりますが、意識改革、業務改革、組織改革等の体質改革につながり企業全体が変わっていきます。変わる者が生き残るという意味で、これが企業の目指す姿だと思います。

開発プロセス改革の狙いは、手戻りを未然防止して試作回数を減らし高効率で高速な開発プロセスを実現することです。手戻りの主要な原因の一つは性能目標未達成等の性能面の手戻りです。企画段階に課題があり、システム性能や目標間のトレードオフが精度良く予測できないことが主原因です。防止するためは、MBD(モデルベース開発)/MBSE(モデルベースシステムズエンジニアリング)手法を活用した企画プロセスを構築する必要があります。開発現場では既に導入が始まっており企画精度が向上しています。今後の課題は企画プロセス(1次元系)と設計プロセス(3次元系)の連結です。システムを最適化しパラメータを確定した後に、それらのパラメータを満足するように構成部品の諸元設計を実施する必要があるからです。

手戻りの主要な原因のもう一つは信頼性目標や要件未達成等の品質面の手戻りです。設計段階に課題があり、設計プロセスが標準化されておらず各設計者に依存していることや設計基準(定量的な制約条件)が不十分で、設計根拠(トレーサビリティ)を担保できていないことです。加えて、3次元CAEは重いためパラスタによる構造最適化が難しいこともあります。検証段階にも課題があり、CAE評価手法が確立できていない現象も残されており、結果として実機検証に依存せざるを得ないことです。

これらの課題を着実に解決して、企画、設計、検証という、全体を統合した新たなプロセスを構築する必要があります。もはや各部門の単発の対策では限界があり、開発全体を包含するプロセスが重要です。従って、関連部門の連携が不可欠となります。

デジタルエンジニアリング実現の主要な手段はCAD、CAE、プラットフォーム(システム)です。その中でも中核はCAEであり、重要性がさらに高まっています。開発プロセスの各段階に体系的にCAEを組込むことが肝要です。企画段階では企画CAEと称され、システムを対象に1次元CAE(システムの挙動を物理式で表現)を用いてモデルを作成し、MBD/MBSE手法を活用して性能目標設定や性能設計等を実施します。品質工学(パラメータ設計)は1次元CAEと親和性が良いのでロバスト設計も併せて織り込みます。設計段階では設計CAEと称され、システム構成部品を対象に3次元CAEを用いて設計構造の最適化を実施します。検証段階では評価CAEと称され、信頼性等の適合性検証を実施します。CAEが鍵になりますので、解析者には開発プロセス改革のリーダーシップを期待しています。

新たなプロセスを構築し開発現場で安定して運用するためには、人依存を脱却したプロセスの標準化、定型作業の自動化、プラットフォームへの実装が前提となります。これら一連の作業にはノウハウや経験も必要であり、新技術創出や新商品開発に集中するためにも外部専門家を活用して改革を加速することをお勧めします。

次回(第2回)は、DXや製造業におけるデジタルエンジニアリングについて解説します。

著者ご紹介

品川エンジニアリング株式会社
(技術コンサルティング)
プロメテック・ソフトウェア株式会社顧問
品川 博 様

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1979年

㈱本田技術研究所 入社(四輪R&Dセンター)

  • エンジン設計(基幹部品)
  • エンジン設計部門長
  • パワートレイン開発部門長(米国研究所)
  • 開発プロセス改革(MBD/MBSE、設計基準構築等)

2016年
品川エンジニアリング㈱ 設立(技術コンサルティング)

  • MBD/MBSE、開発プロセス改革等
  • プロメテック・ソフトウェア顧問